
写真は「
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「
夜の遊歩道」 by nanami
以前の「
裁判員日当 辞退を」の記事で、読者のかたから、記事が「異常に簡単」だ、というご指摘を頂いたので、これについて、もう少し考えてみたいと思います。
まず、地方公務員が裁判員になる場合、何が問題になるのかを、人事屋の立場で考えてみます。
地方公務員法第24条第4項は、給与の二重支給を禁止しています。また、同法第38条第1項は、地方公務員は、報酬を得て、いかなる事業、事務に従事してはいけない、としています。ここで言う
報酬とは給料、手当などの名称の如何を問わず、
労務、労働の対価として支給あるいは給付されるものをいいます。
総務省は、平成20年5月30日付け総行公第49号の中で、「裁判員等に支給される日当については、地方公務員法第38条第1項に定める「報酬」には当たらないことから、営利企業等の従事制限の許可を受ける必要はない」としています。したがって、裁判員の日当を受け取ることは、地方公務員法第38条第1項には抵触しません。
また、
裁判所のQ&Aを見ると、
裁判員や裁判員候補者等に支払われる日当は,裁判員等の職務に対する報酬ではなく,裁判員候補者等として裁判所にお越しいただくことや裁判員等の職務を行うに当たって生じる損害(例えば,裁判所に来るための諸雑費や一時保育料等の出費,収入の減少など)の一部を補償するものです
とされています。
したがって、裁判員の日当を受け取ることは、給与の二重支給には該当しない、という結論になります。
これを制度設計の観点から考えてみましょう。
裁判員は、非常勤の国家公務員であり、地方公務員が裁判員となった場合、地方公務員が非常勤の国家公務員の身分を兼ねることになります。兼職の場合のセオリーとして、異なる職間における身分、命令系統、懲戒権など内部管理的な事項の調整を行います。これは、他自治体等へ職員を交流派遣する場合などに検討する事項です。
この場合、給与面でも二重支給とならないように調整が必要です。裁判員にその職務の対価を支払うこととする場合には、地方公務員が裁判員になった場合の報酬等の給付に係る調整をする必要が生じます。つまり、制度設計の面から考えると、「裁判員等に選任された地方公務員に対する日当の支給に関する特例」といった規定があっても良いと思います。この規定がないとすれば、その理由は、裁判員に支払う日当は、費用弁償的なものであり、職務に対する反対給付という性格のものだとは想定していなかったと推測されます。あるいは、現行法規上の解釈で、同じ帰結となるから、そうした特例の規定は不要と判断したかもしれません。
また、裁判員の日当が課税対象か、それとも非課税であるかは、税法上の問題です。日当が課税対象であれば報酬に該当する、とは一義的にはいえません。裁判員の日当に関しては、それが給与なのか実費弁償なのか、という点から判断すべきです。
最後に、裁判所のQ&Aを見ると、裁判員の日当は、段階的に定められた定額のようです。実費として経費のかかることもありますから、日当の全額を放棄する必要はないでしょう。だからと言って、受け取るべき日当から実費相当部分の額を除いた債権だけを放棄する、というのも実益にも乏しいのではないでしょうか。これは、日額旅費や旅費における日当の取扱いについても同じことがいえます。
以上の考察は法的な側面からのものですが、市民の目線から見てみましょう。
住民感情を考慮した場合、別の判断もできます。私もこれまでの業務で市民の皆さんと接した経験から申し上げれば、市民の皆さんは理屈では分かっても、感情的には納得できないということが多々あるように感じました。それは制度設計の段階で、いろいろな想定がうまく抽象化されていない、という立法上の不満であることを含みます。裁判員制度の是非はさておくとして、これが公民権の一種であることを勘案すれば、広く国民に同様な取扱いがされるべきであることには多くの理解が得られることを期待します。
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