2009-08-13(Thu)

写真は「Plumerian cafe -365photo-」から
「青空を撮るのが好き」 by nanami
人を評価するに当たって、注意すべきことを事例を交えながら考えてみました。
人自身や人の行った仕事を評価するのは難しいことです。
人事考課制度を運用している自治体では、評価の客観性や公正性の担保をどのようにしたら良いかに頭を悩ませていることでしょう。一般的には、評価者(考課者)訓練とそのための研修の重要性が説かれます。こうした研修の目的は、評価基準の統一です。つまり、「評価対象であるもの(判断材料)」と「評価対象でないもの」を明確にし、「評価対象であるもの」だけを「評価する」、言い換えれば、人事評価上、判断材料とすべきものだけについて基準に基づいた判断を下す、ということです。
前段の「評価対象であるもの」は、研修するまでもなく自明のことのようですが、実は管理者によって十人十色です。具体的な例を挙げてみましょう。
以下のようなケースがあったとします。
A係長は、B課主催のC会議に出席することになっていた。
A係長は、所用のため、この会議に出席できなくなり、上司であるA課長とC会議の主管課であるB課の担当者に理由を告げ、C会議に欠席して良いかどうか、あるいは代理出席が必要かなどを尋ねた。
A係長の上司であるA課長は、B課の指示に従うようにA係長に伝えました。
B課の担当者は、自分の上司であるB課長の判断を仰ぎ、代理出席は不要であり、欠席も可とした上で、後でC会議の関係資料をA係長へ送付するよう指示した。
C会議の当日、出席者の一人であるC部長がA係長の不在に気づいた。
C部長は、A係長が欠席している理由をB課長に問い、B課長がA係長の欠席を良しとしたことを知った。
C部長は、A係長はC会議に出席すべき職にあると考え、またA係長の所用は、C会議の方を優先すべきであると判断した。
A係長は、所用のため、この会議に出席できなくなり、上司であるA課長とC会議の主管課であるB課の担当者に理由を告げ、C会議に欠席して良いかどうか、あるいは代理出席が必要かなどを尋ねた。
A係長の上司であるA課長は、B課の指示に従うようにA係長に伝えました。
B課の担当者は、自分の上司であるB課長の判断を仰ぎ、代理出席は不要であり、欠席も可とした上で、後でC会議の関係資料をA係長へ送付するよう指示した。
C会議の当日、出席者の一人であるC部長がA係長の不在に気づいた。
C部長は、A係長が欠席している理由をB課長に問い、B課長がA係長の欠席を良しとしたことを知った。
C部長は、A係長はC会議に出席すべき職にあると考え、またA係長の所用は、C会議の方を優先すべきであると判断した。
この場合、C部長の判断がB課長のそれと異なることを、C部長はB課長に伝える必要があります。それにより、これ以降の会議では、会議参加者の欠席事由の是正がされるでしょう。
しかし、実際に問題となりがちなのは、その後におけるC部長のA係長に関する「評価対象であるもの(判断材料)」です。
A係長は、「C会議欠席」というC部長の意向に沿わない行動を取りました。しかし、会議の欠席に当たっては直属の上司のほか関係部署の課長の許可を取っており、A係長に非はありません。
組織で仕事をしていて、概してあり得るのは、たとえ適正な手続に沿って取った行動であっても、自分の意向に沿わない行動を取った者の評価を自分の中で下げてしまう、ということが挙げられます。「評価の基準はオレが決める」というエラーがここにあります。評価の対象となるものは、組織の必要が決めるもので、個々の管理者が決めるものではありません。また、評価基準ごとのウェートも管理者によって様々ですが、これは別の問題です。
さて、A係長がA課の職員であり、C部長はA課の所管部長である場合、A係長の第二次考課者は、C部長となるように制度設計される場合が多いでしょう。
そうした場合に、例えば、C部長がA係長のC会議の欠席を理由に、A係長の人事考課の能力項目中「責任感」をマイナス評価したとします。C部長はその評価の根拠であるA係長の「行動」を具体的に示す必要が出てきます。評価はそれがプラスであれ、マイナスであれ、職員の具体的な「行動」に基づいて行われなければならないからです。人事の判断は、まず、ラインの課長がするものです。そして、それを部長が検証の上、調整します。所属長である課長は、部下の職務に係る行動に常に注意し、そのうち判断材料たる行動について指導しつつ評価することが役割です。そして、課長の上司である部長は、課長の注意が十分か、その注意に基づいた評価が妥当なものかどうかを評価します。言い換えれば、部長は課長の行った個々具体的な評価を通じて、課長の管理能力という抽象的なものを評価するのです。部長の職が課長のそれより困難とされる由です。
こうした評価の積み重ねを連綿と続け、人事考課票や執務記録書などの文書に記録していく必要があります。特に、昇進昇格の判断に当たっては、基本的には現職の級の全在職期間の人事記録を参考にして、各種「昇格選考のフィルター」に通して判断すべきです。終身雇用で、かつ、日本的な大部屋主義で仕事が進められる組織においては、人事記録の蓄積が必ずしも十分ではなく、評価対象も分からない、評価基準も分からないという意味で、評価は暗黙のうちに行われていました。それでも概ね衆目の一致するところに人事の判断は落ち着いていたものなのですが、記録に基づかないという意味では、恣意的に行われる余地のある運用であることに違いはありません。
C部長のA係長に対する評価が、人事考課には表れないところで行われるのであれば、なおさらで、これは人事の判断を誤ったとされるケースになる蓋然性が高くなることは自明です。また、個々の職員の評価をする上で最も重要なのは、ライン管理職の判断であり、人事課のそれではありません。したがって、まず、ライン管理職の判断の客観性が肝要であると心得るべきで、ライン管理職が自分流の基準に拘ることは、恣意的な人事につながり、結果として職員の人事に対する信頼を失います。人事課の役割は、ライン管理職がどれだけ部下の評価を説明できるか、という検証を行うことであり、それは、同じくライン管理職である各部長のサポートでもあり、全体の調整です。人事課が行う判断は、人事評価の主役ではありません。
人事考課制度は、評価の対象となる職員の行動等を明確化し、その対象となるものだけ「評価をする」ということを明らかにした点で、自治体の人事管理に貢献したと言えます。これは評価をする側だけでなく、評価される側にとってもメリットです。上司は、面接制度等を通じて、こうした評価を自信を持って部下にフィードバックすべきです。
「評価する」ことの課題は、別の機会に取り上げたいと思います。
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