2009-09-29(Tue)
kei-zu様の記事経由で、《元課長弁護人「妥当な判断」 飲酒運転で懲戒免取り消し確定 加西市長「世間感覚とズレ」》から(2009年9月26日 読売新聞)
飲酒運転で懲戒免職になった加西市の元課長による処分取り消し訴訟で、最高裁が市の上告を棄却したことが報道されています。この事件の詳細については不知であるので、コメントすることはできませんが、新聞等の記事から両者のコメントを見てみたいと思います。
どちらの主張にも納得できるものがあります。
裁判においては、双方様々な論点に関して議論を尽くしたのでしょうが、私は次の点に関してどのような主張が展開されたのか関心があります。
それは、弁護士の丸尾拓養氏がNikkei.net「Biz Plus」の連載で述べておられる「長期雇用システムの基礎には信頼関係がある」という点です(「労働契約における信頼関係の重要性」2009/07/15)。私は、この信頼関係が崩れた場合には、もはや雇用契約は継続できないと考えます。なぜなら、職員が職員として不適格な言動を繰り返したりして、職員に対する組織の信頼を傷つけた場合、一緒に働く他の職員にも影響を及ぼし、間違いなく公務能率が低下するからです。これは分限事由になります。また、信頼関係の崩壊が当該職員の違法行為によるものならば、これは懲戒事由になります。
長期雇用制度にアグラをかくことは許されません。親子の間柄ならば、信頼関係が崩れるようなことが起きても、なお家族関係を継続することが可能でしょうし、しなければならないでしょう。しかし、組織は、個人にとって生活の糧を得て社会生活を営む場であり、また、自己実現の場でもあります。そして、組織には目的があり、こうした個人の組織に対する要請は、当該組織の目的の要請の範囲内で認められるものだからです。組織の要請に応えられない場合のため、個人には職業選択の自由が与えられています。
市側のコメントにあるように、飲酒運転の撲滅に国を挙げて取り組む中、時代の要請や世間の感覚を認識しつつ、職員が飲酒運転をした、という事実は、市民の行政に対する信用を著しく失墜させたのは想像に難くありません。また、職員の非違行為がその職員に対して組織が寄せる信頼に、どれほど深い傷を刻んだかを考えてみることも必要でしょう。
意味のない仮定かもしれませんが、本件に裁判員制度が適用されたとしたなら、結果はどうなるでしょうか。
なお、言うまでもなく、市役所も組織として、職員にとって信頼できる存在であるべきです。
(参考)
拙エントリーは、労務管理の面からの考察ですが、本件に関する自治体法務担当者の目から見た考察は、hoti-ak様の「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について」を参考にしてください。また、本件とは関係ありませんが、労使関係における信頼関係について研究したものに有田謙司氏の「イギリス雇用契約法における信頼関係維持義務の展開と雇用契約観」(PDF)があります。
飲酒運転で懲戒免職になった加西市の元課長による処分取り消し訴訟で、最高裁が市の上告を棄却したことが報道されています。この事件の詳細については不知であるので、コメントすることはできませんが、新聞等の記事から両者のコメントを見てみたいと思います。
原告側のコメント
「酒気帯び運転への厳正な処分は必要だが、事案を考慮し、適切に処分することが必要」
「元課長は38年間まじめに勤めてきた。日常的に飲酒運転をしておらず、人身事故もなかった。すぐに免職とするのは、罪と罰の均衡を無視した過酷な処分」
「酒気帯び運転への厳正な処分は必要だが、事案を考慮し、適切に処分することが必要」
「元課長は38年間まじめに勤めてきた。日常的に飲酒運転をしておらず、人身事故もなかった。すぐに免職とするのは、罪と罰の均衡を無視した過酷な処分」
市側のコメント
「全国の自治体運営に大きな影響を及ぼす重大なテーマと判断し、争ってきた」
「飲酒運転の撲滅に国を挙げて取り組む中、時代の要請や世間の感覚からズレた決定と受け止めている」
「全国の自治体運営に大きな影響を及ぼす重大なテーマと判断し、争ってきた」
「飲酒運転の撲滅に国を挙げて取り組む中、時代の要請や世間の感覚からズレた決定と受け止めている」
どちらの主張にも納得できるものがあります。
裁判においては、双方様々な論点に関して議論を尽くしたのでしょうが、私は次の点に関してどのような主張が展開されたのか関心があります。
それは、弁護士の丸尾拓養氏がNikkei.net「Biz Plus」の連載で述べておられる「長期雇用システムの基礎には信頼関係がある」という点です(「労働契約における信頼関係の重要性」2009/07/15)。私は、この信頼関係が崩れた場合には、もはや雇用契約は継続できないと考えます。なぜなら、職員が職員として不適格な言動を繰り返したりして、職員に対する組織の信頼を傷つけた場合、一緒に働く他の職員にも影響を及ぼし、間違いなく公務能率が低下するからです。これは分限事由になります。また、信頼関係の崩壊が当該職員の違法行為によるものならば、これは懲戒事由になります。
長期雇用制度にアグラをかくことは許されません。親子の間柄ならば、信頼関係が崩れるようなことが起きても、なお家族関係を継続することが可能でしょうし、しなければならないでしょう。しかし、組織は、個人にとって生活の糧を得て社会生活を営む場であり、また、自己実現の場でもあります。そして、組織には目的があり、こうした個人の組織に対する要請は、当該組織の目的の要請の範囲内で認められるものだからです。組織の要請に応えられない場合のため、個人には職業選択の自由が与えられています。
市側のコメントにあるように、飲酒運転の撲滅に国を挙げて取り組む中、時代の要請や世間の感覚を認識しつつ、職員が飲酒運転をした、という事実は、市民の行政に対する信用を著しく失墜させたのは想像に難くありません。また、職員の非違行為がその職員に対して組織が寄せる信頼に、どれほど深い傷を刻んだかを考えてみることも必要でしょう。
意味のない仮定かもしれませんが、本件に裁判員制度が適用されたとしたなら、結果はどうなるでしょうか。
なお、言うまでもなく、市役所も組織として、職員にとって信頼できる存在であるべきです。
(参考)
拙エントリーは、労務管理の面からの考察ですが、本件に関する自治体法務担当者の目から見た考察は、hoti-ak様の「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について」を参考にしてください。また、本件とは関係ありませんが、労使関係における信頼関係について研究したものに有田謙司氏の「イギリス雇用契約法における信頼関係維持義務の展開と雇用契約観」(PDF)があります。
スポンサーサイト