2009-09-14(Mon)
私の専門である人事からは少し外れますが、「組織設計」について考えてみました。
市役所は行政サービスを提供するための「組織」です。この組織をどのように組み立てたら、限られた人的資源や予算を効率的に活用できるか、という問題意識があるからです。
一人でできることには限界がありますから人は組織で仕事をします。したがって、まず行政サービスを分業することから組織設計が始まると考えて良いでしょう。分業するとはいえ、本来は行政という一つの仕事であることを考えれば、当然、分業された役割分担間の調整や情報伝達の流れを決める必要があります。また、組織の中で働く人たちの仕事の進め方のルールを決めておく必要があります。以上のうち、最後に指摘した仕事の進め方のルールは、処務規程等により詳細が決められています。本市は5市町村の対等合併によりできたものなので、このルールの調整には手間取るかと思っていましたが、役所間で大した違いはなかったようです。
分業については、本市の場合、まず「部」が最大規模の単位で、次いで「課」、そして「係」となっています。「課」に準じた単位として「室」があります。室は、課の中にあり、将来的に事業が本格化した場合に独立した課となります。また、課とは独立した室というのもありますが、この位置づけは不明確です。出納室のように、市長部局から独立した組織が室の名で呼ばれた名残のような感じもします。
組織設計は、こうした分業単位の段階分けと各単位の役割分担、そして分業単位の調整機能の設計と言えるでしょう。
庁内分権が盛んに言われ、予算編成や人事権について「部局別枠配分」を行う自治体が多いようです。予算権や人事権を持った管理部門は「現場(市民の求めるもの)を知らない」ということで、こうした権限委譲が行われてきました。しかし、各部局の予算や人事をやりくりするために各部局に置かれた「総務課」の職員は、従来の人事課や財政課の職員と同じように部局内の職員に嫌われる存在となった、という笑うに笑えない結果になっているところもあるそうです。
予算について枠配分を行った自治体では、「最初に配当される枠自体が小さ過ぎる」という批判が各部局から出されたそうです。このような発想では、従来の予算配分方法と何ら変わりはありません。また、人事に関して庁内分権を進めたところでは、優秀な人材の部局内への囲い込みが起こり、他部局から非難の声が上がるものの、部局同士の間では調整ができず、結局、どの部局でも欲しいと言われる優秀な人材の各部局への配分は、人事課が強制的に行う必要が生じ、人事課は分権後も従来どおり批判されていると言います。これも笑うに笑えません。
現状に対する批判は常にあるものです。改革をしたらしたで批判は絶えません。では、組織設計は、どのようなスタンスに立って行えば良いのでしょうか。
時津薫氏は、次のように言っています。
また、牧瀬稔氏は、「庁内分権・・・その前に集権だろ」の中で次のようにおっしゃっています。
どの部長も課長も人事や予算に関心があります。予算があれば、やりたい仕事がやりたいようにやれます。部下がたくさんいれば、部下たちも楽に仕事ができて、上司は仕事が大変だと部下から文句を言うことも少ないでしょう。また、優秀な人材がたくさんいれば、仕事を任せても危なっかしいところがなく、議会での説明にも万全の態勢で臨めるからです。
しかし、人と金が潤沢にあれば、誰でも良い仕事ができます。限られた資源の中で市民から求められる高度かつ専門的なサービスをいかに提供するかが経営です。部長職が首長と一体となり、経営層を構成する由です。
部局に経営責任を負わせ、人事課や財政課などはその支援を行うという形式の組織編制とした自治体に佐賀県があります。事業部局は「○○本部」と呼ばれ、当該分野の行政経営に責任を負います。そして、人事課や財政課は「経営支援本部」に属する、という構造になっており、各部の中でも経営支援本部は、行政組織規則上の最下位にあります。これは、事業部制のような考え方による組織設計といえます。県レベルの大組織ならば、こうした組織編制も可能でしょうが、組織規模の小さなところでは非効率を招くでしょう。
(参考)
ガルブレイス「組織設計のマネジメント―競争優位の組織づくり 」(生産性出版)
管理会計のナカミ「事業部制とカンパニー制」(2009/2/24)
ドラッカー学会ブログ「事業活動を組織化する-その9-組織設計の原則とアプローチ」(2008/09/30)
ドラッカー「マネジメント〈下〉―課題・責任・実践」(ダイヤモンド社)
チャンドラー「組織は戦略に従う」(ダイヤモンド社)
市役所は行政サービスを提供するための「組織」です。この組織をどのように組み立てたら、限られた人的資源や予算を効率的に活用できるか、という問題意識があるからです。
一人でできることには限界がありますから人は組織で仕事をします。したがって、まず行政サービスを分業することから組織設計が始まると考えて良いでしょう。分業するとはいえ、本来は行政という一つの仕事であることを考えれば、当然、分業された役割分担間の調整や情報伝達の流れを決める必要があります。また、組織の中で働く人たちの仕事の進め方のルールを決めておく必要があります。以上のうち、最後に指摘した仕事の進め方のルールは、処務規程等により詳細が決められています。本市は5市町村の対等合併によりできたものなので、このルールの調整には手間取るかと思っていましたが、役所間で大した違いはなかったようです。
分業については、本市の場合、まず「部」が最大規模の単位で、次いで「課」、そして「係」となっています。「課」に準じた単位として「室」があります。室は、課の中にあり、将来的に事業が本格化した場合に独立した課となります。また、課とは独立した室というのもありますが、この位置づけは不明確です。出納室のように、市長部局から独立した組織が室の名で呼ばれた名残のような感じもします。
組織設計は、こうした分業単位の段階分けと各単位の役割分担、そして分業単位の調整機能の設計と言えるでしょう。
庁内分権が盛んに言われ、予算編成や人事権について「部局別枠配分」を行う自治体が多いようです。予算権や人事権を持った管理部門は「現場(市民の求めるもの)を知らない」ということで、こうした権限委譲が行われてきました。しかし、各部局の予算や人事をやりくりするために各部局に置かれた「総務課」の職員は、従来の人事課や財政課の職員と同じように部局内の職員に嫌われる存在となった、という笑うに笑えない結果になっているところもあるそうです。
予算について枠配分を行った自治体では、「最初に配当される枠自体が小さ過ぎる」という批判が各部局から出されたそうです。このような発想では、従来の予算配分方法と何ら変わりはありません。また、人事に関して庁内分権を進めたところでは、優秀な人材の部局内への囲い込みが起こり、他部局から非難の声が上がるものの、部局同士の間では調整ができず、結局、どの部局でも欲しいと言われる優秀な人材の各部局への配分は、人事課が強制的に行う必要が生じ、人事課は分権後も従来どおり批判されていると言います。これも笑うに笑えません。
現状に対する批判は常にあるものです。改革をしたらしたで批判は絶えません。では、組織設計は、どのようなスタンスに立って行えば良いのでしょうか。
時津薫氏は、次のように言っています。
私たちが機能する組織を設計する際に、最も留意しなければならないのは、理想的な組織を設計することではなく、働く人が業績をあげ組織の目的を達成することができるようにすることです。各種の活動を位置づけ各種の関係を秩序づける組織構造が健全であるかどうかの判断基準は、そこで働く人が業績をあげているかどうかです。組織は、たんに目的達成のための手段にすぎません。
財政状況が厳しくなり、職員数が削減されていく中、限りある経営資源を最大限に活用するためには、組織設計も重要な経営課題であることが分かります。また、牧瀬稔氏は、「庁内分権・・・その前に集権だろ」の中で次のようにおっしゃっています。
庁内分権しても、その分けられた権能・権限をいかすことができる人材がいないことには、何も変化が起きないからです。
たとえ、理想的な組織をデザインしたとしても、その組織の中で機能する人材がいなければ、理想のデザインも絵に描いた餅、ということです。どの部長も課長も人事や予算に関心があります。予算があれば、やりたい仕事がやりたいようにやれます。部下がたくさんいれば、部下たちも楽に仕事ができて、上司は仕事が大変だと部下から文句を言うことも少ないでしょう。また、優秀な人材がたくさんいれば、仕事を任せても危なっかしいところがなく、議会での説明にも万全の態勢で臨めるからです。
しかし、人と金が潤沢にあれば、誰でも良い仕事ができます。限られた資源の中で市民から求められる高度かつ専門的なサービスをいかに提供するかが経営です。部長職が首長と一体となり、経営層を構成する由です。
部局に経営責任を負わせ、人事課や財政課などはその支援を行うという形式の組織編制とした自治体に佐賀県があります。事業部局は「○○本部」と呼ばれ、当該分野の行政経営に責任を負います。そして、人事課や財政課は「経営支援本部」に属する、という構造になっており、各部の中でも経営支援本部は、行政組織規則上の最下位にあります。これは、事業部制のような考え方による組織設計といえます。県レベルの大組織ならば、こうした組織編制も可能でしょうが、組織規模の小さなところでは非効率を招くでしょう。
(参考)
ガルブレイス「組織設計のマネジメント―競争優位の組織づくり 」(生産性出版)
管理会計のナカミ「事業部制とカンパニー制」(2009/2/24)
ドラッカー学会ブログ「事業活動を組織化する-その9-組織設計の原則とアプローチ」(2008/09/30)
ドラッカー「マネジメント〈下〉―課題・責任・実践」(ダイヤモンド社)
チャンドラー「組織は戦略に従う」(ダイヤモンド社)
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