ポスト成果主義 高橋伸夫
2008-07-01(Tue)

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笑えます。この湯気のリアルさ by 曽野田欣也
ポスト成果主義 スタンドプレーからチームプレーに 高橋伸夫
nikkei.net Biz+Plus 2008/06/30
2004年に出版した『虚妄の成果主義』(日経BP)が思いもよらずベストセラーになったことで成果主義に関する取材をいまだに受けますが、少々辟易しています。
経営学者である私の専門は経営組織論や意思決定論で、人事労務問題が専門ではありませんから。もう成果主義ではなくて、専門の企業経営について聞いてくださいと言いたくなります。
経営学者である私の専門は経営組織論や意思決定論で、人事労務問題が専門ではありませんから。もう成果主義ではなくて、専門の企業経営について聞いてくださいと言いたくなります。
ナショナルミニマムのサービスを提供することを専らの役割としてきた自治体において、職員のコア・コンピタンス(core competence) は何かと問われると弱いところがあるのですが、私の人的資源管理に対する考え方の基本は、RBV(resource-based view)にあります。
そんな私が高橋教授の主張の中で賛同するところは以下の部分です。
成果主義を導入した理由として、成果を上げた人に厚く報いる、すなわち成果の適正な配分がよく挙げられました。しかし、成果を配分する手段は賃金だけではありません。もう1つあります。それは投資です。
士気の高揚と適材適所の配置のほか、人材育成を図るのが、人事評価の大きな目的であろうと考えます。
したがって、私は、給与原資の査定配分は職員のモチベーション管理にも投資すべきであると考えています。例を挙げれば、希望する研修を受講する機会を与えたり、希望する職責を担う機会を与えたりすることです。
簡単に言ってしまえば、これは経営資源の一つである「カネ」の使い道の問題です。これを給料や勤勉手当に配分して、士気高揚を図るのも一つの手ですが、賃金を衛生要因と捉えるモチベーション理論の考え方では、賃金の継続的な上昇は、士気の持続的な高揚を保障しません。
つまり、成績が優秀だからといって、毎年、給料が上がって行っても、それによって職員の士気がいつまでも上がり続けるとは限らない、という意味です。いつかは、賃金上昇による士気高揚も飽和します。これは、定期昇給を既得権と捉える心理と共通したものがあります。
給与原資の「適正な配分」という観点からは、それでも良いのでしょうが、カネという経営資源の効率的な活用、あるいは人材育成の観点から、これを査定原資に限って使うことが「合理的な配分」と言えるかというと疑問です。
賃金上昇による士気高揚の効果が限界的に逓減していくと仮定した場合、その地点で原資の配分方法を変えるのが合理的です。
また、希望する職責が昇格を伴う場合には、その選考方法の検討は課題です。しかし、昇格により給与は一般的には上がりますから、そこに自然と「カネ」によるメリットが生じています。この点では、この方法にも給与原資の「適正な配分」の視点からみた場合と同じ効果があります。
人間の意識面の効果測定は非常に困難です。制度構築に当たっては、合理的に考えるよりも、直感的あるいは常識的に考えた結果が、その時の真理なのかもしれません。
記事の中で高橋教授は、
もう成果主義ではなくて、専門の企業経営について聞いてくださいと言いたくなります。
と述べられています。私が高橋教授にコンタクトを取ったのは、『虚妄の成果主義』が出版されてからかなり経過してからでしたが、教授はご丁寧な反応をしてくださいました。
とは言え、この記事を読んで、学者とは良きものと感ずるとともに、高橋教授には申し訳ないことをしたと反省しています。
(参考) *印を除き資料はすべてPDF
拙メモ「査定昇給の論点メモ(6)_目標管理と数量化の虚偽」(*旧エントリー)
寺畑正英「企業戦略と人的資源管理システムの相互作用」
寺畑正英「人的資源管理論の客観的評価と昇進システム」(*出典のみ)
寺畑正英「人事考課における客観的評価の陥穽」
小本恵照「日本企業における人的資源管理の現状と課題」
谷内篤博「雇用形態の多様化と変化する人材マネジメント」
平田謙次他「人的資源開発におけるコンピテンシー・オントロジーに基づく設計支援アプローチ」
片岡洋子「人的資源管理の戦略的効果」
浅沼雅行「職員の自律的キャリア形成について」(修論)
黒田兼一「人事労務管理の新展開」
浪江 巌「人的資源管理の内容と構造」
岩田一哲「戦略的人的資源管理のプロセス論的評価に向けて」
木村琢磨「戦略的人的資源管理論の再検討」
櫻木晃裕「高業績企業の人的資源管理と組織管理」
櫻木晃裕「職務満足概念の構造と機能」
中川誠士「リソース・ベースト・ビューに依拠した 戦略的人的資源管理 の可能性」
労働政策研究・研修機構「変貌する人材マネジメントとガバナンス・経営戦略」
守島基博「成果主義は企業を活性化するか」
関本浩矢「成果主義導入における従業員の公正感と行動変化」
三戸 公「人的資源管理論の位相」
江 春華「戦略的人的資源管理の定義と分類の批判的考察」
中嶋 学「地方自治体の異動と人材育成に関する考察」
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