「パワハラ」とライン管理
2009-07-24(Fri)
「パワハラでうつ」は労災 厚労省が認定基準追加
2009/4/7 読売新聞
新聞記事はいささか旧聞ながら、私は10年以上前から「パワハラ」に関心を持っていました。人事担当課へ異動してからは、「懲戒処分の指針」を作りましたが、この中に「パワハラ」を入れたい、という個人的な構想がありました。私がパワハラに関心を持った頃は、まだその言葉を知らない人も多く、セクハラと比べも、世間一般の認知度は格段に低いものでした。しかし、今では、「やっとここまで来たか」という感じがしています。
私がパワハラを問題と考えた理由は、日本的な大部屋主義の仕事の進め方には、大部屋内(課内)に弱者を作る内在的な仕組みがあると考えたからです。日本的大部屋主義の特徴として、大部屋内の職員間の和を重視した仕事の進め方が上げられます。行政では昇格審査において人物評価が重視される由です(*)。大まかな職務の担当者は決まっていても、一人ひとりに職務記述書はありませんから、その職務内容は曖昧であり、結果としては大部屋に属する者全員で一つの仕事に取り組むのが基本となります。
もう一つの特徴として、大部屋には、公式には課長を頂点とした序列ができていますが、係長より下の職員群には、年齢や勤務年数のほか、その課での在課年数やその課で担当した業務等による非公式な序列が発生する場合があります。これを私は非公式序列と呼びます。非公式序列は意外と複雑で、在課年数の長い若手職員が、それよりも勤続年数の長い中堅職員の担当業務の前任者であることにより生じる場合もあります。
いずれにせよ、大部屋主義の中には、職制上の公式な上下関係以外のいろいろなパワーが協調しながら、時には摩擦を起こし、衝突したり、対立したりしながら職務を遂行しています。
こうした摩擦や衝突が顕在化する例を一つあげると、よくある例では、先輩職員の後輩指導や前任者による後任者の指導があります。いずれの組み合わせの場合も、前者が後者に対してパワーを持っています。これは、係長対係員といった職制上ほどパワー(立場)の強弱に明確さはありませんが、行政における係員の担当業務の多くが「ルーチン」であるという事実から、実際には、この関係は上下関係という以上に封建的な場合があり不合理です。
「やっとここまで来たか」と私が感じたのは、日本社会のパワハラに対する認識レベルが向上し、これに精神性疾患の業務起因性を認めたことです。これまで精神性疾患については精神論が根強く、過労等による自殺という最悪の結果に至らなければ、これを労務上の問題として捉えられないレベルにありました。今では、日常的に発生するようになったうつ病のような精神性疾患も、業務起因性が認められれば、「公務上の疾病」として取り扱われるようになり得ます。
厚生労働省の指針では、精神障害等が業務上によるものか否かは、精神障害の発病の有無、発病時期および疾患名を明らかにした上で、
ライン管理者は、組織行動論に併せ、この理論も理解している必要があります。上司として担当業務を割り振るだけでなく、部下の能力と経験、そして係内の業務等の知識などについて把握し、係内のパワー関係により、職員に対する各種負荷が係ることを防止・抑制し、メンタル疾患の予防にも、その管理能力を発揮しなければなりません。こうした管理能力の欠如は分限処分の対象であり、自らがパワハラを行う場合などは、当然、懲戒事由になるものと考えます。
(参考)
*:大森彌「官のシステム」(東京大学出版会)
(判例)
豊田労基署長(トヨタ自動車)自殺控訴事件
東加古川幼稚園保母自殺業務上認定事件
(厚生労働省の動き)
参考「職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会報告書」(PDF)
厚生労働省「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平11・9・14基発第544号)
厚生労働省「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部改正について
~職場における心理的負荷評価表に新たな出来事の追加等の見直しを行う~(平成21年4月6日)
2009/4/7 読売新聞
厚生労働省は6日、うつ病などの精神疾患や自殺についての労災認定をする際に用いる判断基準を10年ぶりに見直すことを決め、各労働局に通達を出した。パワハラなどが認定できるよう12項目の判断基準が新設された。
精神疾患による労災認定は、ストレスの強い順に3、2、1の3段階で判断される。強度3で新設されたのは、「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」という項目。これまで明確な基準がなかったパワハラによる精神疾患については、この基準で判断できるようにした。強度2では、企業の人員削減や成果主義の導入が進んできたことから、「複数名で担当していた業務を1人で担当」「達成困難なノルマが課された」といった基準を新たに設けた。
精神疾患による労災認定は、ストレスの強い順に3、2、1の3段階で判断される。強度3で新設されたのは、「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」という項目。これまで明確な基準がなかったパワハラによる精神疾患については、この基準で判断できるようにした。強度2では、企業の人員削減や成果主義の導入が進んできたことから、「複数名で担当していた業務を1人で担当」「達成困難なノルマが課された」といった基準を新たに設けた。
新聞記事はいささか旧聞ながら、私は10年以上前から「パワハラ」に関心を持っていました。人事担当課へ異動してからは、「懲戒処分の指針」を作りましたが、この中に「パワハラ」を入れたい、という個人的な構想がありました。私がパワハラに関心を持った頃は、まだその言葉を知らない人も多く、セクハラと比べも、世間一般の認知度は格段に低いものでした。しかし、今では、「やっとここまで来たか」という感じがしています。
私がパワハラを問題と考えた理由は、日本的な大部屋主義の仕事の進め方には、大部屋内(課内)に弱者を作る内在的な仕組みがあると考えたからです。日本的大部屋主義の特徴として、大部屋内の職員間の和を重視した仕事の進め方が上げられます。行政では昇格審査において人物評価が重視される由です(*)。大まかな職務の担当者は決まっていても、一人ひとりに職務記述書はありませんから、その職務内容は曖昧であり、結果としては大部屋に属する者全員で一つの仕事に取り組むのが基本となります。
もう一つの特徴として、大部屋には、公式には課長を頂点とした序列ができていますが、係長より下の職員群には、年齢や勤務年数のほか、その課での在課年数やその課で担当した業務等による非公式な序列が発生する場合があります。これを私は非公式序列と呼びます。非公式序列は意外と複雑で、在課年数の長い若手職員が、それよりも勤続年数の長い中堅職員の担当業務の前任者であることにより生じる場合もあります。
いずれにせよ、大部屋主義の中には、職制上の公式な上下関係以外のいろいろなパワーが協調しながら、時には摩擦を起こし、衝突したり、対立したりしながら職務を遂行しています。
こうした摩擦や衝突が顕在化する例を一つあげると、よくある例では、先輩職員の後輩指導や前任者による後任者の指導があります。いずれの組み合わせの場合も、前者が後者に対してパワーを持っています。これは、係長対係員といった職制上ほどパワー(立場)の強弱に明確さはありませんが、行政における係員の担当業務の多くが「ルーチン」であるという事実から、実際には、この関係は上下関係という以上に封建的な場合があり不合理です。
「やっとここまで来たか」と私が感じたのは、日本社会のパワハラに対する認識レベルが向上し、これに精神性疾患の業務起因性を認めたことです。これまで精神性疾患については精神論が根強く、過労等による自殺という最悪の結果に至らなければ、これを労務上の問題として捉えられないレベルにありました。今では、日常的に発生するようになったうつ病のような精神性疾患も、業務起因性が認められれば、「公務上の疾病」として取り扱われるようになり得ます。
厚生労働省の指針では、精神障害等が業務上によるものか否かは、精神障害の発病の有無、発病時期および疾患名を明らかにした上で、
①業務による心理的負荷
②業務以外の心理的負荷
③個体側要因(精神障害の既往歴等)
以上3点について評価し、これらと発病した精神障害との関連性について総合的に判断することになっています。これは、いわゆる「ストレス脆弱性理論」の考え方です。②業務以外の心理的負荷
③個体側要因(精神障害の既往歴等)
ライン管理者は、組織行動論に併せ、この理論も理解している必要があります。上司として担当業務を割り振るだけでなく、部下の能力と経験、そして係内の業務等の知識などについて把握し、係内のパワー関係により、職員に対する各種負荷が係ることを防止・抑制し、メンタル疾患の予防にも、その管理能力を発揮しなければなりません。こうした管理能力の欠如は分限処分の対象であり、自らがパワハラを行う場合などは、当然、懲戒事由になるものと考えます。
(参考)
*:大森彌「官のシステム」(東京大学出版会)
(判例)
豊田労基署長(トヨタ自動車)自殺控訴事件
東加古川幼稚園保母自殺業務上認定事件
(厚生労働省の動き)
参考「職場における心理的負荷評価表の見直し等に関する検討会報告書」(PDF)
厚生労働省「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平11・9・14基発第544号)
厚生労働省「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の一部改正について
~職場における心理的負荷評価表に新たな出来事の追加等の見直しを行う~(平成21年4月6日)
スポンサーサイト