平成22年人事院勧告 55歳以上下げ幅大に
2010-07-16(Fri)
人事院:公務員給与、傾斜配分検討 55歳以上下げ幅大に
毎日新聞 2010年7月14日 15時00分
平成18年の給与構造改革の時から、給与担当者の間では、公務員の世代間における「給与格差」を懸念する声がありました。また、それを是正する方法として、この給料表の傾斜配分方式は一つの案として提案されてもいました。
つまり、給与構造改革により給料表の構造が変わり、給与カーブがフラットになり、また、枠外昇給も廃止され、若い世代は昇格しない限り給料は頭打ちになったのです。しかし、経過措置により、後者については現給が保障がされ、同じ級にいても高齢世代は給与カーブがフラット化される前の高い給料を受給しています。また、給料表の構造が変わったことにより、給料表の水準自体が下げられました。これによる現給も保障されていますので、高齢職員は、それより若い世代の職員が到達しえない、言い換えれば、構造改革後の給料表には存在しない高い水準の給料月額を受給しているのです。
給与構造改革の結果、給料表の水準が下がり、給与カーブがフラット化したことにより、単純に考えても、高齢職員の生涯賃金と若手職員のそれとの間には「格差」が生じることになります。この格差には例外もあるでしょうが、例外が生じるとすれば、その若手職員が例外的に早く昇格して、少しでも長い期間、少しでも高い水準の級に在級すること以外は想定できません。
公務員の人件費改革は、定数管理という形で行われています。これは、公務員はクビにはできないので、定年退職による職員数の自然減に対して、新規採用を抑制することにより実現されます。しかし、これからの給与政策は、定数管理ではなく、文字通り「総人件費管理」になっていくだろうと想定されます。
総人件費管理によれば、人件費の総枠が決定しており、それを職員間でどのように配分するか、という給与政策により具体化されます。能力主義とか実績主義として10年程度前に持て囃された「人事考課制度」による査定昇給等もこうした総人件費管理の必要から生じた給与政策の一つといえます。しかし、いわゆる人事考課と給与とを結びつける人事給与政策は失敗しました。
次に考えられるのは、年齢層ごとの傾斜配分になります。総人件費改革は、指定管理者制度などを活用した行政の外部化により名目上の人件費を下げることによるよりも、公務員の給与水準のあり方自体を問うようになってきているといえます。そして、給与構造改革による職員の世代間に生じた「給与格差」を是正する、という意味でも傾斜配分は合理的です。
ただ、これにも問題があります。国は一律にこれを行うことができますが、合併した自治体の一部では、以前読売新聞の記事で問題とされたワタリにより、給料が高止まりしている高齢職員が存在するからです。高い級から順に削減率を高く設定して傾斜配分していくこともできますが、これから昇格していく若手職員は、せっかく高い級に到達しても、結局は低い水準の給料を受けることになります。ただし、これは相対的な話であります。
したがって、こうした点に配慮した場合における方法としては、「年齢」により傾斜配分を定める方法があります。いずれにせよ、人事院が「ベテラン公務員の給与が民間企業の同年代の社員を上回っている実態」というのは、軽率な一般化であり、傾斜配分の理由付けとする言い訳という印象があります。なぜなら、民間企業においては、若いころの給与水準が公務員より高い、という一面もあるからです。業種にもよりますが、民間では若い頃から高い給料をもらい、55歳で役職定年となり、その後60歳の定年までは給与水準が著しく下がるという例もあるからです。
もちろん、傾斜配分には合理的な面もあります。それは職能資格制に対する反省としての面です。つまり、年齢とともに昇格し、ポストがなく、また特別な職能を求めることなく給与水準のアップを保障したこれまでの運用の行き詰まりです。この職能資格制度が働く人のモチベーションを維持向上させることに役立った、というか考え方に対して私は懐疑的です。なぜなら、賃金は衛星要因であると考えているからです。
また、公務員の場合、クビになることがなく終身雇用制が保障されています。それが当然のこととして受け取り、有り難味がなくなっています。雇用を保障されていることに有り難味を感じ、公務に忠誠を抱いている職員などいるとは思えません。それと同じで、定期昇給や、定期昇格も制度として運用される限り、人はそれを「当然の権利」と捉え、逆にそれがなくなると不満を覚えるものではないでしょうか。
団塊世代の弊害として、若い世代の昇格の遅れが指摘されています。職能資格制による定期的な昇格においても、これが遅らせることにより、キャリアプラトーという現象が生じたわけです。この昇格の遅れの結果として、高い給料水準に到達するのも遅れることから、生涯賃金が相対的に低くなることになります。こうした面の是正策としても、傾斜配分という人事院が取り組もうとしている給与政策には合理性があるのではないでしょうか。
実際には、多くの自治体においては、給料表を人事院勧告に則って改正するだけであるでしょうが、各自治体が実際に運用されている給与政策の中で以上のことを議論するとしたら、その自治体における「高齢職員」と「若手職員」を明確に定義する必要があります。
毎日新聞 2010年7月14日 15時00分
人事院が国家公務員の給与水準に関して8月に行う勧告で、引き下げ幅を55歳以上でより大きくし、30歳代以下で小さくする傾斜配分方式の導入を検討していることが14日、分かった。ベテラン公務員の給与が民間企業の同年代の社員を上回っている実態を踏まえた措置。省庁のあっせんによる天下りの禁止で滞留する公務員に自発的な退職を促す狙いもありそうだ。
人事院は昨年の勧告で月給を0.22%引き下げるよう求めた。今年も引き下げ勧告になる見通しだが、傾斜配分方式にすることで、ベテランへの退職勧奨に加え、新卒者の「公務員離れ」を抑制する効果も期待している。
ただ、導入には困難も予想される。傾斜配分方式にしても、全体を一律に引き下げた場合と総人件費は変わらない。政府は公務員制度改革でみんなの党との連携を模索しているが、同党は「公務員給与の2割カット」を掲げていることから隔たりは大きく、より抜本的な給与体系の見直しを迫られるのは必至とみられる。
人事院は昨年の勧告で月給を0.22%引き下げるよう求めた。今年も引き下げ勧告になる見通しだが、傾斜配分方式にすることで、ベテランへの退職勧奨に加え、新卒者の「公務員離れ」を抑制する効果も期待している。
ただ、導入には困難も予想される。傾斜配分方式にしても、全体を一律に引き下げた場合と総人件費は変わらない。政府は公務員制度改革でみんなの党との連携を模索しているが、同党は「公務員給与の2割カット」を掲げていることから隔たりは大きく、より抜本的な給与体系の見直しを迫られるのは必至とみられる。
平成18年の給与構造改革の時から、給与担当者の間では、公務員の世代間における「給与格差」を懸念する声がありました。また、それを是正する方法として、この給料表の傾斜配分方式は一つの案として提案されてもいました。
つまり、給与構造改革により給料表の構造が変わり、給与カーブがフラットになり、また、枠外昇給も廃止され、若い世代は昇格しない限り給料は頭打ちになったのです。しかし、経過措置により、後者については現給が保障がされ、同じ級にいても高齢世代は給与カーブがフラット化される前の高い給料を受給しています。また、給料表の構造が変わったことにより、給料表の水準自体が下げられました。これによる現給も保障されていますので、高齢職員は、それより若い世代の職員が到達しえない、言い換えれば、構造改革後の給料表には存在しない高い水準の給料月額を受給しているのです。
給与構造改革の結果、給料表の水準が下がり、給与カーブがフラット化したことにより、単純に考えても、高齢職員の生涯賃金と若手職員のそれとの間には「格差」が生じることになります。この格差には例外もあるでしょうが、例外が生じるとすれば、その若手職員が例外的に早く昇格して、少しでも長い期間、少しでも高い水準の級に在級すること以外は想定できません。
公務員の人件費改革は、定数管理という形で行われています。これは、公務員はクビにはできないので、定年退職による職員数の自然減に対して、新規採用を抑制することにより実現されます。しかし、これからの給与政策は、定数管理ではなく、文字通り「総人件費管理」になっていくだろうと想定されます。
総人件費管理によれば、人件費の総枠が決定しており、それを職員間でどのように配分するか、という給与政策により具体化されます。能力主義とか実績主義として10年程度前に持て囃された「人事考課制度」による査定昇給等もこうした総人件費管理の必要から生じた給与政策の一つといえます。しかし、いわゆる人事考課と給与とを結びつける人事給与政策は失敗しました。
次に考えられるのは、年齢層ごとの傾斜配分になります。総人件費改革は、指定管理者制度などを活用した行政の外部化により名目上の人件費を下げることによるよりも、公務員の給与水準のあり方自体を問うようになってきているといえます。そして、給与構造改革による職員の世代間に生じた「給与格差」を是正する、という意味でも傾斜配分は合理的です。
ただ、これにも問題があります。国は一律にこれを行うことができますが、合併した自治体の一部では、以前読売新聞の記事で問題とされたワタリにより、給料が高止まりしている高齢職員が存在するからです。高い級から順に削減率を高く設定して傾斜配分していくこともできますが、これから昇格していく若手職員は、せっかく高い級に到達しても、結局は低い水準の給料を受けることになります。ただし、これは相対的な話であります。
したがって、こうした点に配慮した場合における方法としては、「年齢」により傾斜配分を定める方法があります。いずれにせよ、人事院が「ベテラン公務員の給与が民間企業の同年代の社員を上回っている実態」というのは、軽率な一般化であり、傾斜配分の理由付けとする言い訳という印象があります。なぜなら、民間企業においては、若いころの給与水準が公務員より高い、という一面もあるからです。業種にもよりますが、民間では若い頃から高い給料をもらい、55歳で役職定年となり、その後60歳の定年までは給与水準が著しく下がるという例もあるからです。
もちろん、傾斜配分には合理的な面もあります。それは職能資格制に対する反省としての面です。つまり、年齢とともに昇格し、ポストがなく、また特別な職能を求めることなく給与水準のアップを保障したこれまでの運用の行き詰まりです。この職能資格制度が働く人のモチベーションを維持向上させることに役立った、というか考え方に対して私は懐疑的です。なぜなら、賃金は衛星要因であると考えているからです。
また、公務員の場合、クビになることがなく終身雇用制が保障されています。それが当然のこととして受け取り、有り難味がなくなっています。雇用を保障されていることに有り難味を感じ、公務に忠誠を抱いている職員などいるとは思えません。それと同じで、定期昇給や、定期昇格も制度として運用される限り、人はそれを「当然の権利」と捉え、逆にそれがなくなると不満を覚えるものではないでしょうか。
団塊世代の弊害として、若い世代の昇格の遅れが指摘されています。職能資格制による定期的な昇格においても、これが遅らせることにより、キャリアプラトーという現象が生じたわけです。この昇格の遅れの結果として、高い給料水準に到達するのも遅れることから、生涯賃金が相対的に低くなることになります。こうした面の是正策としても、傾斜配分という人事院が取り組もうとしている給与政策には合理性があるのではないでしょうか。
実際には、多くの自治体においては、給料表を人事院勧告に則って改正するだけであるでしょうが、各自治体が実際に運用されている給与政策の中で以上のことを議論するとしたら、その自治体における「高齢職員」と「若手職員」を明確に定義する必要があります。
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